研究者の卵の卵

決して頭がいいとは言えない大学生が、日々おもったことや学んだことをつらつら書きます。人工知能や脳科学の話が多くなりそうです。

高専について語ってみる

今まで書いた記事の中でトップレベルに、需要があるかどうかが微妙なテーマなのですが、他にネタがないので書いてみます。

高専とは?

まず、高専とはなんぞやというお話です。
Wikipediaによると

高等専門学校(こうとうせんもんがっこう)は、後期中等教育段階を包含する5年制(商船に関する学科は5年6か月)の高等教育機関と位置付けられている日本の学校 。一般には高専(こうせん)と略される。

だそうです。
Wikipediaの情報はあんまり正確ではないので、アンサイクロペディアの説明も載せておきましょうか。

高等専門学校(こうとうせんもんがっこう、英語:National Institute of Technology)とは、大卒並みに高い専門性を持ちながら大企業が安価に使える社畜を生産するために設置されている訓練所である。高校と同じく、中学校卒業後に入学する事ができる。略称は高専、NIT。

とのことです。

両者ともに書いていることなので書くまでもありませんが、「高専」は「高等専門学校」の略称です。
英語での名称は、数年前まで「〇〇 National College of Technology」でしたが、今は「National Institute of Technology, 〇〇 College」にパワーアップしています。
Collegeと呼ばれていたのが突然Instituteになっているわけですが、Instituteを冠する教育機関と言えば、アメリカの「Massachusetts Institute of Technology (マサチューセッツ工科大)」とか、スイスの「Swiss Federal Institute of Technology (スイス連邦工科大)」とか、国内の「Tokyo Institute of Technology (東工大)」とかがあります。
名前だけはこの辺の名門理工系大学と同列の扱いを受けているというわけですね。

ちなみに高専の修学年限は5年間です。
中学を卒業した人たちが入る学校で、大学2年生になる学年で卒業できます。
世間一般の生徒たちは、おそらく中学を卒業したら高校に入り、一般教養科目を中心に学びながら大学受験に向けた勉強をしていくものだと思いますが、その一方で、テクノロジーとかものづくりとかに興味を持った中学生たちは、高専に入って若いうちからかなり専門的な教育を受けます。

勉強内容

学科

高専にはいくつか学科が設けられていて、だいたい 機械・電気/電子・情報・建築/土木・化学 に関する学科が多いです。
中には、商船系の学科がある高専や、経済に関する学科もありますし、高専によっては情報系・電子系あたりが細分化されているような学校もあります。
あと、なんか学科を1つにするトレンドがあるみたいで、高知高専とかはもともと4学科ぐらいあったのを全部廃止して、「ソーシャルデザイン工学科」というのを設置したみたいです。
1、2年生の間はだいたいみんな共通する科目を勉強して、3年生で学びたい分野によってコース分けを受けるみたいですね。

一般教養

高校生が3年間で習う一般教養科目は、高専では2年でだいたい済ませてしまいます。
その代わり、文系科目はかなり少ないですし、理系でも進学校と比べると、内容は浅いです。
なんせ大学受験のための勉強をしないので、単元が進むスピードは速いですが、演習問題を解かされる量は大したことないわけです。

専門科目

高専教育の主役です。
これがなければ高専に入学する意味がありません。
1年生と2年生では、その分野の基礎的な専門知識をつけるための授業を受けます。
私が所属している高専情報工学科では、1年生では電気基礎、2年生では電気回路とC言語ぐらいしか、専門科目はありませんでした。
本格的に知識が深まり始めるのは3年生ごろで、うちはここでコンピュータアーキテクチャとか、2年生までに習ったC言語の知識を用いた応用プログラミングについて学びました。
情報系分野に興味があって高専に入ったため私はあんまりガチで勉強していませんでしたが、確か3年生では電子回路の授業も受けていた記憶があります。 4年生になると、さらに応用的な科目が増え、選択制のものが多くなります。
私はこの学年で「人工知能基礎」とか「システムプログラミング」を学びました。
システムプログラミングはちょっとおもしろいなーって感じの授業だったのですが、年間を通してLinuxマシン上でシェル(っぽいもの)の実装を目指す内容でした。
5年生では、一周回ってなぜかプログラムを書くような授業はなくなってしまいました。
高専は制度上、進学希望者も就職希望者も大抵が、5年の夏休みまでには進路が確定していることが多いので、後期は卒業単位が足りている人なんかはあまり授業は取らず、適当に遊んで卒論を書いて卒業、みたいな人が多いと思います。

工学実験

高専のパンフレットなんかでよく、ツナギを着たり眼鏡をかけたりして、測量をしたりよくわからない機械をさわったりパソコンをカタカタやっている人の写真を見ると思いますが、
あれはほぼ全部「工学実験」に取り組んでいる姿だと思っていただいて差支えないと思います。
どういうことをするかというと、主に授業で習った内容の実践みたいなものです。
私の所属先だと、情報工学科でも意外とプログラムを書くようなことはなく、電気回路を組んで特性測定をしたり、論理回路を作ったり、そういうことをやっていました。
大学でもそうだと思いますが、高専でも実験をしたら必ずレポートを提出する必要があります。
学校にもよると思いますがうちは手書きでした。
本格的にレポートを書かなければいけないのは3年生からなんですが、このときは年間を通して4テーマぐらいしか実習を行わず、各テーマに対して2回のレポート提出だったので合計で8本しか書いていません。
ただ、4年生に進級したとたんなぜか鬼になり、テーマ数が2週間に1つというペースになります。
なので、確か扱ったテーマ数は半期で7つとかだったように記憶しています。
で、実験が始まる前と終ったあとにそれぞれレポートの提出が義務付けられてますので、年間で提出するレポートは28本です。
さらに面倒なことに、各学期で2つ、内容がずば抜けて高度なテーマがあるのですが、それはなぜか1週間しか時間が割り当てられていません。
なので、この期間は本当に地獄でした。
再提出なんかも当然あったりするので、学期末が近づいてくると、要領が悪い学生は1週間で6つぐらい必死になってレポートを書いていたりもしていました。
真面目に文献を探しながらレポートを書く学生も一定数いますが、ある意味賢い学生は、先輩たちとコネクションを作っておいて、彼らのレポートをなんとか入手してそれを利用していることが多いようです。
全体的に地獄ですが、これで割と高専生はビシバシ鍛えられているらしく、大学や企業に入ってからはレポートの質の高さに太鼓判を押されることがよくあると聞いたことがあります。

卒業研究

高専の学びの集大成となるのが卒業研究です。
詳しいところはこちらも学校や学科によってまちまちですが、私が所属している高専情報工学科に限って言えば、
4年生の4月に各研究室の説明会みたいなのが開催されて、そのあとすぐに配属先の希望調査があります。
面談などは特になく、第n希望まで提出した各学生の成績ややる気なんかを総合的に見て、学科会議で教員たちが採用する学生を選びます。
先生によっては、あらかじめ3年生ぐらいのうちから研究室の見学に行っておいて、ちょっとしたコネクションというか、媚売りというか、そういう働きかけをしておくと、希望の研究室に入りやすくなったりします。

配属を受けてからは、4年生と5年生の計2年間、研究室に所属して卒業研究を進めていくことになります。
ここでは、2年間通して同じテーマを研究する人もいれば、4年生と5年生で別々のテーマに取り組む人もいます。
学生のモチベーションによっても研究のクオリティはまちまちで、スマホアプリの開発をやりました~(車輪の再発明)」みたいな人もいれば、問題に対する手法提案と、その評価実験にもとづいた本格的な「研究」をする人もいます。
大学と同様に、最終的には卒業論文を執筆して提出することを目標に取り組んでいきますが、本格的に取り組んでいる学生や進捗のいい学生は、外の学会に発表しに行ったり、コンテストの類に成果物を展示したり賞をもらったりするようなこともよくあります。
私は研究者志望ということもあり、開発というよりは研究寄りで取り組んでおり、4年次の終わりには人工知能学会さんが主催している小さな研究会で成果発表を経験しました。

高専のメリット

進路が決まりやすい

高専卒は実は、専門的な知識や技術は大卒並にある上に、年齢が若いこともあってかなり安い給料で手に入る労働力でもあるのです。
そのため、高専を卒業していれば就職難になることはまずなく、就職を希望している人は7割ぐらいが第一志望の企業に入りますし、就職浪人をする人間はほぼいません。
就職してからの企業からの評価もそれなりに高いことが多く、特に報告書(レポート)の書き方なんかは大卒よりも心得ていたりするので、そういった技術には定評があります。
実験や卒業研究も、基本的には一回ではできないようなレベルを要求される場合が多いので、ググり力というか、問題解決力みたいなのも高いんではないかと思います。

進学に関してもかなり楽で、私のように編入学という制度を使うと、高校からの進学ではかなり難易度が高い大学にもある程度楽に入ることができます。(当然、それなりに専門知識や実績は要求されることが多いですが)
これはおそらく学校にもよると思いますが、高専によったら、関関同立ぐらいの私立大学には名前を書くだけで入れたりすることもあるそうです。
こちらは就職ほど早くは決まりませんし、高望みすると第一志望で必ず入れるということはないのですが、
技科大、九州工業大、電通大東京農工大あたりは、推薦という制度があり、学力試験を受けることなく入れたりもします。
逆に、東大・京大を目指すと、ほぼ合格はできませんし、入れても1学年下げられるので、生涯修学年限がちょっと伸びちゃったりもします。
なぜか、私の高専からはことし、筑波大学を受験する人がめちゃくちゃ多かったのですが、最終的に一人しか受かりませんでした。

遠くに行かなくていい

これはあくまでプライベートのお話なのですが、高専には必ず学生寮が附属しています。
高専にもよりますが、多いところでは半数ぐらいが寮で暮らしているので、わざわざ遠くに行かなくても、友達の部屋でだべるとかいう行為は、寮の中で完結できてしまいます。
試験期間になると通学生にとってもこれはメリットになっていて、「ふだん通学に時間を使っていない→勉強がしっかりできている」というステータスを持つ寮の学生を、
研究室や図書館に召喚することで試験勉強を優位に進めることができます。

そもそも、寮がある時点でかなりのアドバンテージなので、早く独立したいけど勉強もしたいしお金も節約したい・・・という中学生は、高専を考えてみてはいかがでしょう。

高専のデメリット

多様性がない

名の知れた大学の学生や教員の方々と交流する機会があって、高専について雑談する機会があると、必ず言われるのが「高専には多様性がない」ということです。
高専生は大きく以下の2種類に分類できます。

  • 中学生の時点で工学に興味があった人
  • 工学にはもともと興味がないけど、就職率がいいので入ってきた人

高専の中でもレベルの高い、明石高専、奈良高専、木更津高専あたりになってくると、人口の影響もあって前者の割合が高くなってくるのですが、
閉鎖されたコミュニティで5年間過ごすと、世間に興味を示さなくなってしまいます。
基本的にずっと数式や自分の専門分野と向き合っていて、しかも趣味も大体みんな同じです。
アニメを見たり漫画を読んだり、車やバイクの話をしてはいるのですが、トレッキングが趣味です!ボルダリングが趣味です!ダンスが趣味です!みたいな人たちはいないので、そういう意味では多様性が全くありませんね。

大学では、構内で適当にすれ違った学生を捕まえて、自分の専門分野についての話題をおもむろに振るとドン引きされると思いますが、
高専ではそれをやると同調してきます。そういう感じです。

女子が少ない

これは男子にとっても女子にとっても死活問題です。
よく考えてください。高専の就学期間というのは、留年したりしない限り16歳~20歳です。
世間の人間は、青春を謳歌している年頃です。
そんな年代を、女子が少なくて多様性のない空間で過ごすと何が起こるかは想像に難くありませんね。
もちろん、そういったリスクを冒せるぐらいのメリットはあるのですが、いざ高専に入ってみると、青春できないことに対する精神的なダメージは思っていたよりも大きいです。

女子にとってももちろん、女子が少ないというのはある程度のダメージになりうると思います。
恋愛ができないとかいうことで悩むことはないかもしれませんが、やはりガールズトークの相手はいるんじゃないでしょうかね?私は男なのでわかりませんが。

もちろん、卒業して進学したり就職したりすると、ある程度女性のいる環境に置かれることになると思うのですが、そういった場所に行った時も、女性とのコミュニケーションの取り方を心得てない高専卒の人たちは少し苦労する場面もあるのかもしれません。
私は運よくクソかわいい彼女がいるのですが、それをクソかわいいと思っているのが高専生だけ、ということも普通にあり得ます。

まとめ

高専への進学を考えている中学生の皆さんと、高専生とこれからかかわるかもしれない一般人向けに書いてみました。
高専生はすごく変わった生き物ですが、社交性がまったくないわけではないので、仲良くなると面白いかもしれません。
それから、デメリットはいろいろ書きましたが、私は高専に来てよかったと思っています。
ちゃんと勉強するモチベーションがある人にとっては天国のような環境なので、専門的な分野について早く学びたいと思っている中学生の皆さんは、ぜひ高専への進学を検討してみてください。